吉野家の牛丼

うちの奥さんは吉野家の牛丼食べたことが無いそうで、無くなる前に食べなきゃと騒いでいます。今まで食べたこと無いっつーのはどうかと思いますが、未来永劫無くなるわけでもあるまいし、こんなに大騒ぎするのもまたどうかと。オーストラリア牛に切り替えようと試してみたけど同じ味にできなかったので苦渋の決断なんだとか。聞けばアメリカ牛は飼料で育ててるのに対して、オーストラリアは牧草食ってるので脂肪が少ないんだそうな。牧草の方がほんとは旨いんじゃないかと思うんだけど。
そもそも日本人は肉の味に関して、「柔らかい = 旨い」だと思ってませんか? そりゃ柔らかいさ、脂の固まりだもん。10年以上前に1年半くらい米国に住んだことがあるのですが、ステーキハウスでサーロイン食べたらそりゃー旨かった。$30くらいだからそんなに超高級ってわけじゃないけど、ステーキってこういう味なんだって感じ。日本の「噛まなくても溶けてく」みたいなステーキとは全然違う。それでいて決して筋っぽくはない。肉の味がする。そもそも日本のスーパーに売ってるような霜降なんてどこ探しても売ってませんよ。
「柔らかい = 旨い」は結局、まだ日本が貧しくて筋だらけで噛みきれないような肉しか食べられなかった時代の名残なんじゃないかと思うのです。筋だらけで食べられないから仕方なく牛鍋にした。煮込んだりしたら肉の味は出ていっちゃうけど醤油と砂糖でしっかり味付けしてるからそれなりに旨い。味の染み出た汁がもったいないから牛丼にした。やがて豊かになり、細切れでも薄切りでもない固まりの肉が食えるようになった。でもあの噛みきれなかった悔しさは拭いきれない。「噛みきれるかどうか」という最も低次元で、かつ最もわかりやすい価値基準だけが残った。そんな基準でしか判断できないのは何故でしょう? 本当に旨い肉を食べたことがないからではないのですか? と言ったら怒りだす人がたくさんいるんでしょうけど。
外国人が刺身を食べるのを見たことがありますか? 醤油を嫌と言うほどつけてますよね。下手したら上からどぼどぼかけたりする。刺身そのものの味がわかんないからです。フランス料理とかでは白身の魚にごてごてとクリームソースみたいなのをかけたりします。それはそれで旨いかもしれないけど、新鮮ならそのまま刺し身で食った方が旨いに決まってる。「旨いに決まってる」って思えるのは何故でしょう?新鮮で本当に旨い刺身の味を知ってるからです。その味を知っていれば、スーパーで売ってる少々鮮度の落ちた、あるいは解凍の仕方の悪い刺身でも、その味を想像して食べられるんです。でもフランス人にはそれはできません。本当に新鮮な魚を生で食べて美味しいと感じた体験が無いからです。我々日本人はどうですか? 本当に美味しい肉を塩と胡椒だけで食べたことがありますか?